サムット・プラカーンの渡し船

 サムット・プラカーンという県をご存じでしょうか?バンコクのすぐ南側に接しているのですが、観光で来られた方にとっては、クロコダイル・ファームくらいしか縁が無いかも知れません。子供の頃、ここに住んでいたというタイの友人に聞いた所では、昔から臨海工業地帯ということで工場や発電所がたくさんあったため、税収が豊富で、県庁などはなかなか立派なものだと聞きました。サムット・プラカーンというのは海の要塞というような意味らしいのですが、19世紀はじめにラマ2世がそれまでパク・ナーム(河口)と呼ばれていたこの地域にサムット・プラカーンという 名で要塞を造らせたのだそうです。その後もいくつかの要塞が作られて海軍が置かれ、英仏などの侵入を防いできたそうです。ちょうど日本の明治時代の話ですね。 周りの国々は全部英仏の植民地になってしまったのに、タイは結局そうはならなかったのですから、きっと役に立ったのでしょう。

 サムット・プラカーンの県庁は、バンコクの王宮あたりから測った直線距離では約28Kmです。空港までと変わりませんのでたいした距離ではありません。ちょうど東京駅から横浜駅までがだいたい28Kmくらいでしたよね。ところがこの28kmが実際に車で行ったらなかなか大変なんですよね。チャオプラヤ河が大きく蛇行しているために、バンコクからだと東の方を迂回して行かなければなりませんし、空港へ行く時のような高速道路もありません。カンボジア国境までつながっているというスクムビット通りをずっと真っ直ぐ行けばいいんですが、今はモーター・ウェイという高速道路が出来たためにパタヤ方面へ行く場合にはサムット・プラカーンには寄りませんね。また、地図を見てみますとクロントーイ港のあたりから”パク・ナームへの古い鉄道の道”と名付けられられた道路が延びているようですので、昔はきっと貨物線か何かがあったんでしょうね。

 さて、何でわざわざそんなところへ行った かと言いますと、別に県庁を見に行くわけではないんです。「バンコクの渡し船は旅情が無くてつまらないよ。ちっとも船らしくないしサ。」という話をしていたら、件の友人が「オレの生まれたサムット・プラカーンにはとってものどかで旅情あふれる渡し船がまだあるんだよ。」と言うのです。この地図でプラ・サムット・チェディと書かれている黒丸のところから、ちょうど向側のサムット・プラカーン県庁のあたりまで、たったの2バーツで旅情あふれる渡し船を楽しめるというわけです。今回は、スクムビット通りなら昔よく通ったので、トンブリ方面から行ってみることにしました。

  

 サートン通りの先のタクシン橋を渡ったあたりから、約1時間ちょいでプラ・サムット・チェディに着きました。このプラ・サムット・チェディというタイ語を分解してみますと、プラがお坊さんあるいは立派なという意味、サムットが外海あるいはそれに面した場所、チェディが仏塔という意味ですね。渡し船の乗り場の隣にあるお寺がワット(お寺)・プラ・サムット・チェディという名前でした。その名のとおり立派な仏塔を構えていましたよ。

  

 さて、どんな旅情あふれる渡し船があるのかと思って期待して、桟橋に入りました。早速、左手の方から船がやって来ました。バックに見えているのが向こう岸のサムット・プラカーンの県庁です。いやぁ、期待通り年代物の船のようです。なんだか昔の湘南電車みたいな面構えです。タレ目になる前のオリジナルのモハ80みたいです。ちょっと例えがマニアックなうえに古すぎましたかね。ほんの5分ほど停まって、今度は右手の方に出て行きました。お坊さんも乗っていますね。目の前に何だか浮島のような中州のような、というかマングローブの固まりみたいなものがあって、これを迂回して向こう岸へ行くんですね。後で聞いたら、「ああ、あの島ならオレの子供の頃からあるよ。」って言ってましたので浮いているのではなさそうです。しばらく行き来する船を見ていたのですが、すでに桟橋の入り口のゲートで船賃を払ってあるので乗ってみることにしました。

        

  中州を迂回してゆくと、何だか外海に出たみたいな錯覚に陥りました。このあたりの川幅はだいたい1.5Kmくらいです。随分沢山の貨物船が停泊しています。クロントーイ港へ接岸する順番を待っているのでしょうか。漁船や水上警察の船も見えますね。石油タンク、化学工場、発電所なども見えます。大きな船が通ると、こちらはエンジンを止めて待機しています。もう完全に観光客気分で写真を撮りまくってるんですが、周りの方々は毎日ここで生活しているわけですから不思議そうな顔で見ています。そもそも観光客が来るような場所じゃありませんものね。

  

  10分ほどで対岸のサムット・プラカーンに着きました。ここは船着き場がいきなり屋根付きの市場になっています。さて、バンコクを出たのが午後3時過ぎだったので、もうすっかり夕方になってしまいました。急いでプラ・サムット・チェディに戻ることにしました。島を囲んでちょうど左回りに渡し船が運航していて、帰りはちょうど県庁の前を通り過ぎる感じですが、何でこんなに立派でモダンな建物なんでしょうね。どこかの大学みたいです。

 さて、往復で正味30分くらいの船の旅?でしたが、予想以上に楽しかったです。まず、大きな河というだけでなんだかとても遠くへ来たような気分になります。「チャオプラヤ河なら年中見ているだろう」って?市内中心部ではだいたい川幅は300mですから全然印象が違うんですよ。5倍ですものね。今度は是非河口まで行ってみようと思いました。<テラワダ>

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