クロントーイ港で暇つぶし 

  バンコクの河川港をクロントーイ港と言う。と言ってもスラム街の方が有名になってしまっているかも知れないが。

  最近はタイ湾(シャム湾)に面したシーラチャの近くのレムチャバン港の方がメインになってしまい、こちらはコンテナ混載の小口貨物が主体になっているようだ。河川港では水深の関係であまり大きな船は入って来られないだろうし、たいして広くもないチャオプラヤ河では停泊場所も限られているから、所詮は限界があるのだろう。

  港で暇つぶしと言っても、横浜港のように山下公園があるわけでもなく、ただただ汗水流して働く人たちと行き交う船をぼんやり眺めているだけだ。(昔そんな歌があったっけ)

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  港の入り口にはPort Authority Of Thailandと書いてあり、その両側にゲートがある。ここから先がクロントーイ港だ。何やらものものしいゲートなので、一般人は入れないのではないかと思って引き返したという人もいるようだが、別に何の検問があるわけでも無く、誰でも自由に入ることが出来る。港の一角ではお釈迦様が港の安全を見守っている。ジャスミンの花も供えられている。タイらしい光景だ。

   

  入ってしばらく行くと、右手に煉瓦作りの古い倉庫が並んでいる。コンテナなどというものが無い時代からあるのだろう。この日はパナマ船籍のWinning Runという船が荷役をしていた。カメラを構えると、働いているニイちゃん達が不審そうな目でこちらを伺い見る。暇そうな奴だなあ、とでも思っているのだろう。裕次郎や小林旭でも出てきそうな風景だ。(オイラも古いな。)

  

  さらに奥の方へ入って行くと、コンテナ積み込み用のガントリー・クレーンが立ち並ぶ。KUO CHIA(国家)という大仰な名前の船が停泊していた。このような名前を付けるのはてっきり中国かと思ったら、Kee Lungと書かれており、台湾の船のようであった。振り返ると、対岸はなぜかジャングルそのままのような感じ。ホーチミンから見たサイゴン河の対岸だと言われても信じてしまうような風景だ。いずれ探検に行ってみなければ。

   

  しばらく、岸壁に腰掛け、チャオプラヤ河を行き交う船を眺めてぼんやり過ごす。タグ・ボートや小さめの貨物船などが頻繁に行き交う。観光船や水上レストランなどが往来する、シャングリラやオーキッド・シェラトンのあたりとは随分違った風情だ。

  聞いた話だと、夕方になると小舟に果物や食材、その他の生活物資一般を積んで、停泊している船に行商に行く人々が現れるそうである。また、夜になると場合によっては、妖しげなオネエ様方を満載した怪しい小船もやってくるとの話も聞いた。彼女らはしばしの間船員と生活を共にし、炊事・洗濯何からナニまで面倒見てくれるのだそうである。そんなこと をするくらいなら船員サン達はなぜ上陸して遊びに行かないのだろうか。そのあたりの事情が気になってしょうがない。 (その後聞いた話によると、高級船員はともかく、低級船員は給与が低く、船で寝泊まりしていればとりあえず部屋代はタダなのに、わざわざ上陸して遊んで遅くなりホテルに泊まるようなことはしない、ということなのだそうである。)

  

  向こうに停泊している船では、何やら米袋のようなものを積み込んでいるようだ。時折、水上タクシー、水上ワゴン車?といった風情の小舟もやってくる。岸壁から、これらの小船を手招きしている人もいる。港湾局の制服を着た人、港で働いていると思われるオジサン、船員風の人などが、船との間を往復するのに使っている。右側の小船タクシーの運ちゃん?は髪の毛を真っ赤に染めたオネエチャマだった。ちょっと乗ってみたい気もしたのだが、大きな船の通った後などはかなり波立つため、随分揺れているようで怖そうなのでやめた。

   

  遠くの方にはバンコク・メトロポリスの高層ビル群がかすんで見えている。サートン通りあたりだろうか。随分遠くに来たような気もするが、シーロムあたりからでも、プラザ・ホテルの前から伸びる新しい道を来れば順調に行ってほんの20分くらいのものである。

 

  さて、これは知り合いのタイ人のオバチャンから聞いた話なのだが、今から15年くらいほど前まではこのコンテナが野積みされたあたりは市場になっていたそうである。普通の市場と同じように食料品も衣服も何でもあったそうである。とりわけ、テレビ・ラジカセなどの電気製品やカメラなどが安いということで買いに行った人が沢山いたそうだ。それらのすべてが輸入品だったのだ。タイ大丸デパートが開店したのは1972年10月9日だが、80年代半ば頃まではデパートは一般人が気軽に買い物に行くところではなかったらしい。レムチャバン港の開港は1991年のことだから、当時は港と言えばクロントーイだったのだ。何でも、密輸されている、つまり輸入税を払っていないので安いのだという評判だったそうだ。税関のお膝元で、もし本当にそのようなことがあったのだとすれば、のどかな時代だったのだろう。

 街の電気屋さんも多くはここから仕入れていたので、メーカーの品質保証も何も無かったそうである。今でもタイで電気製品を買うと、店員さんがコンセントにプラグを差し込み、スイッチを入れて「ホラ、ちゃんと問題なく使えるでしょ。」などと実演してくれるが、案外こんな時代の名残なのかも知れない。「今じゃソニーもパナソニックもタイに工場があるでしょ。だからもう、輸入品を買う必要なんてないのよ。Made In Thailandがイチバンよ。トヨタもホンダもね。」と、オバチャンはちょっと誇らしげに言った。その通りだ。この15年の間にタイの港を出入りする品物も随分と趣が変わったのだろう。そんなことを思いながら、港を後にした。ゲートのすぐ外にセブン・イレブンがある。ああ、のどが渇いた。<鈍無庵>

 

<バンコク港 一口メモ>

バンコク港は、シャム湾内、北緯13.26度、東経 100.35度に位置する灯台を目印にチャオプラヤ河を遡る事約18Kmに位置する河川港。港湾施設はPort Authority of Thailand が管轄しており、通称PATまたはクロントーイ港と呼ばれている。900エーカーの敷地内には、船舶の着岸バースや税関事務所を始め、コンテナ・ヤード、保税倉庫等の施設があり、輸出入貨物の荷揚、搬送などで混雑している。

河川港である為、船長172m以下、水深8.2m以下の船舶しか入港できず(河川の水深は浚渫工事等で8.5-11.0mに維持されている)、船長50m以上の船腹についてはPilotによる曳航が義務付けられている。

(船長50m以上の船舶については、ラマVI世橋迄の進入しか認められておらず、同地点より川上への貨物搬送は小型船舶に積み替えなければならない。)

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